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2022/08/01

「症状固定」は傷害と後遺障害の分水嶺

「症状固定は傷害と後遺障害の分水嶺」

 

保険金額別建ての原則

自賠責保険では,損害賠償の項目を《傷害分》と《後遺障害分》,および《死亡分》に区分(いわゆる保険金額別建ての原則)していますが,怪我については,通常,〈転帰〉が「治ゆ(または症状固定)」,「中止」「継続(実質中止を含む)」までの《傷害分》と,それ以降に残存した後遺症についての《後遺障害分》に区分されます。(今回は,《死亡分》は省きます)
保険金額別建ての原則とは,例えば《傷害分》の自賠責保険での認定額が200万円となった場合,自賠責保険会社は上限保険金額である120万円を支払いますが,残りの80万円はあくまで《傷害分》としての被害者側の残額(=相手側の未払額)となり,仮に後遺障害等級が認定された場合でも上記残額である80万円を《後遺傷害分》として流用することはできないという考え方です。

 

傷害と後遺障害の境目

《傷害分》の損害項目としては,治療費・通院交通費・傷害入通院慰謝料,休業損害等々があり,診断書上の〈転帰〉が「治ゆ(または,症状固定)」と診断された場合,最終治療日(症状固定日)以降に発生した治療代・通院交通費・傷害入通院慰謝料・休業損害等々は自賠責保険の支払対象外となります。

なお,「症状固定」は,損害賠償分野における法的概念であって,医学的用語ではないため,通常の診断書(経過診断書)の〈転帰〉欄には印字されていませんが,労災でいうところの「治ゆ=なおったとき」と同義とされています。当該言葉の解釈については,労災保険上は『傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても,その効果が期待し得ない状態で,かつ,残存する症状が自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したとき』とされています。

そのため,自賠責保険における《傷害分》では「症状固定」以降の対応は,労災における「治ゆ」とされた以降の対応と同様の取り扱いとなります。

一方,《後遺障害分》の損害項目としては,逸失利益・後遺障害慰謝料・将来介護費等であり,症状固定後に行われた治療については支払い対象外となります。しかしながら,症状固定を行わなければ,後遺障害認定申請を行うこと自体ができないため,症状固定との判断は後遺障害等級認定のための重要な足がかりとなります。

 

自賠責保険は,前述のとおり,保険金額別建ての原則に基づいているため,一旦「症状固定」と診断されると,《傷害分》はその日以降の全ての請求は対象外となる反面,主治医から後遺障害診断書が発行されれば《後遺傷害分》の請求ができる〈権利〉が発生することになります。つまり,症状固定とは,まさに傷害と後遺障害の分水嶺と言えます。
したがって,「症状固定日」以降も痛み・しびれ等の症状が回復せず,これら残存症状に対して自賠責保険にて後遺障害等級認定がなされると,《傷害分》とは別建ての《後遺障害分》についての損害枠が確保され,逸失利益や後遺障害慰謝料などの損害賠償を請求することが可能となります。

後遺障害が残ったら

なお,後遺障害等級認定業務は,通常,損害保険料率算出機構(各地区の自賠責損害調査事務所)が担当しますが,申請の方法は任意保険会社が行う事前認定と,被害者(代理人弁護士等)が行う被害者請求(16条請求)があります。事前認定は任意保険会社が主となって手続きを行ってくれるため被害者側にとって資料収集等の負担は軽くなりますが,十分な資料・証拠等の収集が万全と言えない事案も散見されます。
この点,被害者請求であれば,被害者自身が主体となって必要資料・証拠収集を行うため,時間や手間はかかるものの,被害者の意に沿った申請を行うことができます。しかし,被害者自身が手続きを行うのは実質的に相当の負担がかかるため,やはり専門家である弁護士に相談(委任)する方法が賢明と言えるかもしれません。