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2023/11/06

【運行起因性】バス乗降時・発進時・停止時の転倒事故

バス乗降時・発進時・停止時の転倒事故

バス(この欄では乗合バス)は私たちの最も身近な公共交通機関として日々の生活になくてはならない存在です。一方で、バス乗降時・発進時・停止時の転倒事故(以下、バス転倒事故といいます。)が少なからず発生していることも事実です。特に高齢者は、若者や壮年者に比し反射神経や身体能力に劣ることが一般的で、発生事故の78%が60歳以上という消費者庁発表の資料(平成25年9月13日付)に示されています。

留意事項について

国土交通省は平成23年6月に《乗合バスの車内事故を防止するための安全対策実施マニュアル》を作成しており、事業者及び運転者に対し、乗車時・発進時・走行中・減速~停止時の遵守・留意事項が定められています。例えば、発進時には〈立っている人が手すりにつかまったことを確認し、アナウンスしてから発車する〉、走行中には〈走行中に席を移動しないこと、バスが停車してから席を立つことを注意喚起する〉、減速~停止時には〈「ゆるやかなブレーキ」を実施する〉等々、バス運行にかかる遵守事項が細かく定められています。
バス運行会社によって言い方は異なっても、バスに乗車している時にこのようなアナウンスを都度耳にしますが、前記マニュアルに基づき、乗合バスの運転士は、発進時の乗客の着席確認や座席移動時の注意の呼びかけ、停止してからの乗客の移動下車、発車時のドア扱い、乗降客の動静把握などに注意して運転する義務があります。

過失の検討

バス転倒事故の場合は、その発生原因・結果等を個別に検討する要素が高い事故ですが、まず、運転士の安全配慮義務違反の有無を検討する必要があります。例えば、バスに乗車しようとした客がステップに足をかけ昇段後、ドア閉めと同時に発車したためバランスを崩して転倒し負傷した、等の事故は運転士の安全配慮義務違反が認められる可能性が高い事例と言える一方、運転士が適切な速度を遵守しながら走行し、前記マニュアルの注意喚起を都度励行しているにもかかわらず、乗車客が座席を立ち勝手に車内を移動中に転倒した場合等は、運転士に安全配慮義務違反が認められない可能性が高い事例と言えます。

自賠の適用について

なお、自賠法2条2項は、「運行とは自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう」と定義しています。また、近時は「運行によって」の解釈として、「自動車の危険性が顕在化した」場合に、運行起因性が認められています。したがって、バス転倒事故が発生し乗客が負傷した場合、前述の運転士に求められる安全配慮義務違反の有無の判断と同時に、この「運行起因性」の有無の判断も重要となります。

 

例えば、バス停で客が降車し、扉(当該装置)が閉まりバスが発車した時に、降車客が歩道でつまずき転倒した場合などは、「自動車の危険性が顕在化した」ことが原因とはならない、と判断される可能性があります。バス転倒事故は通常の衝突事故に比し件数自体も少ないことから、意外と知られていませんが、バス利用者側もバスの特有の危険性を認識し、乗降時・乗車中にかかわらず、バス利用時にはマナーを守る心構えが必要と考えます。