2022/09/27
実際にあった高速道路上のヒヤリ事例
以前,九州県内の片側二車線の九州自動車道(高速道路)において,自らの車両から脱落したタイヤを中央線上で回収しようとしている男性の様子がテレビ等で報道されました。
幸い,対向車線を走行して来た車高の高い大型トラックのパッシングによって,第一車線走行車両と追越し車線走行車両がそれぞれ異変に気付き減速したため事故は回避されましたが,対向車線からのパッシングがなければ現場は右カーブとなっていたこともあり,あわや大惨事となっていた可能性もあります。
この報道内容を参考事例として,判例タイムズ38に掲載の高速道路上事故の過失割合について考えてみます。前記報道では,男性は車両を追越し車線右側の中央分離帯に寄せて停車し,車両から約300m後方までタイヤを回収しようと歩き(または走り),タイヤを拾いあげようとしている様子が確認できます。以下に述べるのは後続車両がそれぞれ停車車両,歩行者,タイヤに衝突した場合を仮定し,自賠責で検討されるであろうと考えられる過失割合等を記載しています。
まず,道路交通法第758条の8で高速道路上ではそもそも停車(駐車)することが禁じられています。やむを得ない場合のみ〈停車(駐車)のため十分な幅員がある路肩又は路側帯に停車(駐車)するとき〉と規定されています。本事例では後続車両が追突した場合,判例タイムズ38 P476【320図】に該当すると考えられます。基本過失として追突車は前方不注視となりますが,中央分離帯側に停車した被追突車には,追越し車線への停車で+10,及び退避措置不十分(ハザードランプのみの点灯)の著しい過失で+10で少なくとも+20が修正され,追突車40:被追突車60程度の過失割合となる可能性があります。
次に,車両が歩行者と衝突した場合を考えますと,本報道の場合,「本線車道を歩行中の歩行者の事故」に該当すると考えられ,判例タイムズ38 P491【332図】の適用が妥当と考えます。もとより高速道路上に歩行者がいること自体が法律上予定されていないものであり,歩行者の過失は80%と極めて大きいですが,車両運転者にも道路交通法第70条(安全運転の義務)でいう前方不注視等の過失は避けられないものとなっています。なお,高速道路上の自転車も【332図】が準用されます。
また,後続車両がタイヤ,積み荷等の落下物と衝突した事故例は少なくないようですが,判例タイムズ38 P488の〈解説〉では後続車の道路交通法第70条(安全運転の義務)違反より,前車の道路交通法第71条4号や同法75条の10違反による過失は大とし,基本過失割合を後続車40:前車60としています。
報道事例の場合は,著しい過失として停車車両の整備不良(もしくは積載方法不良)等が検討されることになります。後続車両が落下物自体に実際に衝突せずとも,例えば急ブレーキ・急ハンドル等でガードレールに衝突して怪我をした等の場合も落下物が事故を惹起したことが明らかとなれば準用されます。