2022/10/01
【過失割合】路上横臥者等と車両との交通事故
検討事例 路上横臥者等と車両との交通事故
路上横臥者(座り込んでいる人,四つん這いになっている場合を含みます。)は,道路交通法上,「歩行者」として扱われており,車両(二輪車を含みます。)対歩行者との交通事故は,弱者保護として「歩行者」が保護されています。
道路交通法第70条では,
「車両等の運転者は,当該車両等のハンドル,ブレーキその他の装置を確実に操作し,かつ,道路,交通及び当該車両等の状況に応じ,他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」
と安全運転を義務付けています。車両運転者は,基本的に前方に注視して運転することになるわけですから,道路横臥者と衝突した車両運転者には「歩行者」との衝突を基本として,通常大きな注意義務違反が認められており,判例タイムズ38のP123~P125,【47図(昼間の場合)】【48図(夜間の場合)】がこれに該当します。
他方,車道(道路)は,あくまで車両が走行することを目的としているため,基本的には人が車道上で横臥することは認められていません。したがって,弱者保護とは言え,車両運転者に,車道上で人が横臥していることまで予見して車両を走行させる義務はないのではないか(予見可能性の有無)という疑問点も出てくる訳ですが,この点,多くの裁判例では前記のように車両走行車に一定の注意義務違反を認めつつ,道路横臥者にも通常の歩行者と比べ,一段の厳しい過失割合修正を行っており,【47図(昼間の場合)】では基本過失割合は30%,【48図(夜間の場合)】での基本過失割合は50%とされています。
道路を横断する通常の歩行者の過失割合は,判例タイムズ38 P110【37図】が一つの代表例ですが,基本過失割合は20%(夜間の場合は25%)ですが,道路横臥者に対しての基本過失割合は30%(夜間の場合は50%)とされ,+10~+25の著しい過失修正・重過失修正が行われています。特に,夜間の場合は酒酔い等による横臥者の可能性が高まるものの,車両運転者からの発見が昼間と比べ,より困難との事情が勘案されています。
なお,他の修正要素中,【37図】と,【47図(昼間の場合)】および【48図(夜間の場合)】の大きな相違点は,「児童(6才~13才未満)・高齢者(65才以上)」と「幼児(6才未満)・身体障害者」に対する軽減修正です。
一般に前記歩行者は,その判断能力や行動能力が低い者として過失割合が軽減されています。【37図】では「児童・高齢者」の場合-5%の軽減,「幼児・身体障害者」の場合-10%の軽減ですが,【47図】【48図】の場合「児童・高齢者」の場合-10%の軽減,「幼児・身体障害者」の場合-20%の軽減と軽減率が大きくなっています。この理由は,前記歩行者が一旦は〈通常の歩行者〉として道路横断を開始後,車道上で転倒等の何らかの事情により〈道路横臥者〉となった場合に,〈通常の歩行者〉状態への速やかな復帰(回復)は困難との事情が斟酌されていると考えられます。